黒サンゴの指輪物語  高鳥奈緒   2023.11.3
 
物にあふれ満たされすぎると
本当に大切なものが見えなくなる
必要なものは、それ程多くはないのだし。
 
祖母の黒サンゴの指輪は
無くなる少し前に母が受け取った
母も年老いて私に来た黒珊瑚さんご
 
黒サンゴの指輪物語か。
私の心に住む祖母は優しさを教えてくれた人
子供時代を思い出す
石鹸の香りの前掛けに寝転んだ
祖母の膝上は私の特等席
「おまんは、いい眉してるな」と笑顔で見下ろし
私の眉を撫でる。
山梨訛りが耳元でたゆたい、やがて泣きじゃくる。
 
在りし日の祖母と母。
そのやり取りが鮮明によみがえると
滲んでいた涙が大雨になった。
 
黒サンゴの指輪は逃げ出しそう。
夕焼け雲に向かって、私の鼓動と滂沱ぼうだにこらえ切れず、
くるめき転回しながら飛んで行ってしまいそう。