近作詠草3 令和元年六月一日 (No.1928)
         濱野成秋
 
 
早春に生きがひを求められ
まどろみの長きしとねの朝ぼらけ
     はだら雪視ゆうつつもの憂し  成秋
 
厳寒に迷ひ出でて
人知れず氷柱つらら立つ視ゆ天竺の
     仏の世より垂れる雫か  成秋
 
茂吉の病身を吾ことの如く思いを馳せ
歯科医より帰りし吾は夕まぐれ
     鬱々として雪の道ありく
                    (茂吉『白き山』より)
 
現身うつしみのわが歯朽ちをり山野辺の
     かたぶく雪棚黙々と
                    (成秋、本歌取り)
華宵の乙女らに誘われて歌ふ
うぐひすの声は哀しもくれたけ
     恋ゆる女子めごあり病める稚児あり  成秋
 
昔日の海女の家を訪ね歩きたるが
過ぎ去りし海辺の風や海女の家
     ここら哀しも足跡もなく     成秋
 
この生への執着を思い煩ひて
このいのちおぼろ入寂たへなむひととせ
     超へて伏す身の耐え難かりき   成秋
 
老ひても君を忘れじと茂吉は詠めり
おひびととなりてゆたけき君ゆゑに
     われは恋しよはるかなりとも  (茂吉)
 
老人おひびととなりてもはべらめ君の許
     乞ひ木枯こがれしや狂へるがゆへ (成秋本歌取り)
諸行無常と人は言ひたるが
いつの世も変はらぬものもなくもがな
     すり減るこころ朽ちる肉體にくたい   成秋
 
(参考)
 
今はゆかむさらばと云ひし夜の神の
     御裾みすそさはりてわが髪ぬれぬ   晶子
 
ひとまおきてをりをりもれし君がいき
     その夜しら梅だくと夢みし   晶子
 
 
                     (No.1928は以上)