濱野成秋近作浪漫短歌(令和三~五年)
 
 
時経れば百年なりとも親しきに父母兄みな逝くそを如何にせむ
 
お水取り越えねば春は来ぬといふ母の冬里思へば幾歳
 
春は惜しみまかる師の影時移り桜吹雪の日和も疎まし
 
この世をば散りて去りたるさくらばな実をば結ばめ春は来ずとも
 
田の里に住ひし父母の影遠くいま帰る身に降る蟬しぐれ
 
衣笠の寓居手放す日も近し十歳ととせの哀歌も幻と化す
 
くちびるや歯牙にまとひし言の葉を秋風に舞ふ瞳に告げをり
 
人世ひとよ老ひかぼそきかひなで野分け戸を閉めていかづちしっぽり想ひて
 
父母ちちはは御影みえいこわし若きまま今宵は何処いづくと目が問ひ給ふ
 
古里に帰りて思ふは繰り言ぞ時世ときよの渦に浮きつ沈みつ
 
古里の盆の太鼓は哀しけれ路ゆく人のみな変わり居て
 
憶良おくら遺言いごんよ税よとめくるめき昔の人もかくて逝くかや
 
北条のたけ女子おなごを想はせて梅花流るる鎌倉の春
 
母の時代に戻りて
の便り受くるも苦界ぞ包みたるつぼみの梅が枝咲かせと乞うや
 
いほは仮寝の宿よと天の声されどふすまはやはらかぬくきぞ
 
螢火の小川の岸に立つ父母の着物も帯もいづこに去るや
 
書く人に残日かぞへと責める身に炎天かたぶき降る里しぐれ
 
百年ももとせの遠きに生くる歌人うたびとも友の衰へ嘆ける夏の日
 
腸削る手術の日取り傍らに青い蜜柑をむさぼり喰らふ
 
父母ちちははよ千代もと祈る心もて未だ帰らぬ吾身責め病む
 
新春にひはるを寿ぐ賀状を断りて友よ咲く花いかに愛しも
 
黄泉の日はけふかあすかで春となり娘の慶事でしばし沙汰止み
 
いにし世を知らぬ存ぜぬ子らたちにすさむ思ひを語るも空し
 
メリケンのボールいくさの歓声に古武士の戦場いくさば遠のくが如
 
ふだ入れは学歴いつはる乱れ籠天空黄砂も人為ぞ若葉よ
 
ひとり咲きひとり墜ちゆく寒椿五月の地べたに濡れて重なる
 
葉月待つ麦酒旨しと友柄の一人没すと言の葉届く
 
熱帯の蚊を貰ひしか極寒の汗だく寝返り兵士のまぼろし
 
ヸオロンヴィオロンのひたぶるに恋ふ若き日はいずこに去りしと駅に降り立つ
 
けふもまた御魂みたま消へしと言ふ友の声霜枯れて寒夜しんしん