生きている靴  濱野成秋   2023.7.29
 
ここは亀ヶ岡八幡宮の境内
炎天下に露天がいくつも
木陰もろくにないのに
生きた革でくるまってる空間が二つ
不用品だぞと威風堂々たる登山靴
 
摘まみ上げる、靴紐にぶらさがり
「それ、買って。二百円でいいの」
履いてみる。妙に冷たい
そんな北極空間、この日盛りにあるわけないのに
やはり冷たい靴底がひやっこい。
 
「亡くなった主人が喜びます」
 
もう君、脱いで、置いて、買わずに去っちゃいかんよ
この世から俺のために冷やっこい霊感だけを遺して
どた靴が炎天下で吠える、「俺様は靴だ、雪よ岩よ、吾等が宿り
俺たちゃ 街には住めないからに」
言われなくても君はもう、次の
生きた足首を捕まえて、護ってやる気だろ
俺はしかし雪よ、岩よ、吾等が宿り…とは行かんだろ、
もがいても、もがいても
解決など見当たらない僕の人生を
先刻知っていて護ってくれるかい、どた靴よ 
もつれた僕の家族と君の前世の家族が
亀ヶ岡の炎天下でばったり出会った、
ほどけない紐で。
 
情けなくて悲しくてみっともない
小さな僕の大胆な人生を
ビニール袋でくるんでもらい、
歩き出す自分は、もはや別人の魂魄。
この靴のために楽しい時間を、新しく作れるかい?
 
君の生家は大阪。田んぼの中にある白壁土蔵のあるお家。
そんな坊やがなんで今、逗子駅前の
神舎の炎天下なのだよ。
生きるって一筋縄ではいかない
どんな困難も乗り越えてきたというのに
売ってくれた家族も大学教授の一家だそうな。
どこ? 大町、雪の下
炎天下に雪の下か、教会がありますね。
立原正秋と親しかった早稲田の先生も
雪の下にお住まいだった。
コインを2つあげて、じっと見る革の登山靴
これお前、これから君の人生、
始まるね、
僕は黄泉にて待つ父君の遺訓も知らず
ぽっちゃり娘の汗噴き鼻先に
どた靴だけを引き受けたよとも言えず
目いっぱい笑うと笑い返してくる愛想のいいお嬢さん…。
津軽の花火  高鳥奈緒   2023.7.28
 
今夜は祖母の着付けでおめかし
恥じらい躊躇ためら浴衣ゆかたのわたし
気持ち焦って早足だから
下駄の鼻緒がちょと痛い。
 
ぼんぼり提灯ちょうちん商店街
行きかう人の笑顔も揺れて
こんなに人がいたんだここに
黒いシルエットは岩木山
 
闇に溶けてく川沿いの
広場に着くと流れてる
曲に合わせてドンと鳴る
光の輪が闇空に
はじける花火に泣き黒子ぼくろ
わたし泣いてる暗闇で
わいわいがやがや
わくわくどきどき
光が重なり空高く
たまやーたまやー
津軽まで来てまで断ち切れぬ
思いがまとう津軽の花火…
玉屋がとりもつ縁かいな
Wonder・・・  高鳥奈緒   2023.7.26
 
世の中は wonder
美しいから。
ほらみて
世の中は wonder
言葉にできない景色をみるの
世の中は wonder
あなたにしか見えないから
世の中は wonder
あなたに教えてくれるから
世の中は、あなただけの wonderなの
生きるって  高鳥奈緒   2023.7.26
 
生きるって・・・たんたんと
生きるって・・・ひょうひょうと
生きるって・・・流れに逆らわないこと?
生きるって・・・ありのままを受け止め
たんたんと
ひょうひょうと
生きるってことなのかもしれない
青いイトトンボ  高鳥奈緒   2023.7.5
 
あの葉の上に止まったよと
指さす私に
どれ?というあなた
あれはイトトンボだよと
あなたが教えてくれた
 
細く青く光るイトトンボ
かよわそうに一瞬ふわりと高く飛んで
また、後ろ髪を引かれるように
わたしとあなたについてきた
 
青いイトトンボ
知らぬ間に姿を消した
青いイトトンボ
今はいずこに・・・